
製作委員会から
食といのち「ヒトが人となるために」
ヒトは生きるために日々、何かを食べなければならない。
しかし、今、この国の人々は「食」をないがしろにしているのではないだろうか。
それではヒトは人にはなれない。
よりよく生きるための確かな生命観を築くこともできない。
「食」を通して、本物の生命観に至るためにはどうすればいいのか。
これは辰巳芳子さんが文芸春秋(2011年11月号)にて対談された冒頭のイントロです。私たちは辰巳さんの想いを具体的なカタチとするために、この映画製作をスタートさせました。
食と生命のつながり。生きるために「食する」とは。
このたび、食と生命のつながり、その大切さを多くの方々と一緒に考える機会の一助とするために、料理研究家・辰巳芳子さんの縁につながる有志が集まり、映画「天のしずく〜辰巳芳子・いのちのスープ〜」を製作する運びとなりました。
自然の恵みや伝統に培われた日本料理の美味しさ、美しさが世界中の称賛を受けている一方で、国内では食料自給率が40%前後、食品廃棄率が25%前後と、食を軽んずる傾向はますます強まっています。日本の農業が、ビジネスとして成り立たず疲弊・衰退の一途をたどっているのは、こうした食を軽視する風潮と無縁ではありえません。
グルメ情報の洪水の中、家庭の食卓は質的な貧しさが急激に進んでいるのではないか、という問題意識で、辰巳芳子さんが中心となって実施された食生活アンケートに、“朝食—無、昼食—サラダと菓子パンとコーヒー、夕食—ラーメン・ケーキという回答例がありました。驚くことに、これは例外ではなく同様の傾向が実に多く見られます。この現実をもたらした原因としては、農林水産省が示す、いわゆるわが国の食料自給率の低下や食品廃棄率の高さもあるかも知れませんが、本質は食に対する認識の欠如である、と辰巳芳子さんは言います。生きるために「食する」とは、それが肉であれ魚であれ、米や野菜や水であれ、数日、数時間前には他者の命の一部であつたものであり、それを屠り、犠牲にして、自らの命をつなぐということ。それに気づいて初めて、命の大切さと大いなる自然への畏れと賛歌の気持ちが芽生えてくるのではないでしょうか。このことを伝えるために、これまで辰巳芳子さんは多くの著書の出版をはじめ、「大豆100粒運動を支える会」や「良い食材を伝える会」などを中心として活動してきました。このたび、この精神と活動に賛同した有志が集まり映画製作委員会を立ち上げたところ、辰巳芳子さんも快く賛同していただきました。
本映画が多くの方々に届き、有意義なものとなりますよう、皆様のご理解と暖かいご支援を、心よりお願い申し上げます。
2011年
天のしずく製作委員会
委員長 中島 榮一郎